2026年の土用の丑の日は、7月26日(日)です。
スーパーにはうなぎが並び、飲食店には「土用の丑の日」の文字が掲げられ、私たちは今年も自然な流れでうなぎを食べようとしています。
しかし、考えてみると不思議です。
なぜ私たちは、丑の日に牛ではなく、うなぎを食べているのでしょうか。
しかも、うなぎは決して安い食べ物ではありません。それでも毎年、多くの人が「土用の丑の日だから」という理由で財布を開きます。
この大規模な消費行動のきっかけを作った人物として、よく名前が挙げられるのが平賀源内です。
もしこの説が本当なら、私たちは200年以上前に作られた広告企画に、令和の現在も動かされ続けていることになります。
そもそも「土用の丑の日」とは何なのか
「土用」と聞くと、夏のうなぎを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、土用は夏だけにあるものではありません。
もともとは、立春、立夏、立秋、立冬の直前に設けられた、季節の変わり目を指す言葉です。そのため、土用は春夏秋冬の年4回あります。
「丑の日」は、日付に十二支を順番に当てはめたとき、丑に当たる日のことです。
つまり「土用の丑の日」とは、土用の期間中に巡ってきた丑の日というだけです。
2026年の夏の土用では、丑の日は7月26日の1回だけです。毎年同じ日になるわけでも、必ず2回あるわけでもありません。
ここまでの説明には、まだ一匹もうなぎが出てきません。
土用と丑の日を組み合わせても、うなぎを食べる理由にはならないのです。
丑の日なのに、なぜ牛を食べないのか
昔から夏の土用には、名前に「う」が付く食べ物を食べると、暑い時期を元気に過ごせるという言い伝えがありました。
候補はうなぎだけではありません。
うどん、梅干し、瓜なども「う」の付く食べ物です。牛も当然「う」が付きます。
つまり、本来のルールだけを考えるなら、土用の丑の日に梅干し入りのうどんを食べても構いません。
むしろ、うな重よりかなり安く済みます。
それにもかかわらず、現在は「土用の丑の日=うなぎ」という組み合わせが圧倒的に定着しています。
そこで登場するのが、江戸時代の学者として知られる平賀源内です。
平賀源内が作ったとされる広告コピー
有名な説では、夏にうなぎが売れず困っていた店から、平賀源内が相談を受けたとされています。
天然うなぎの旬は一般的に秋から冬とされ、夏は客足が落ちやすい時期でした。
そこで源内が店先に出すよう提案したとされるのが、
「本日、土用丑の日」
という張り紙です。
土用の丑の日には「う」の付くものを食べるとよい。その習慣とうなぎを結び付けたところ、店が繁盛し、ほかの店もまねするようになったという話です。
ただし、これはあくまで有名な説の一つです。
平賀源内が実際に考案したと断定できる記録が十分に残っているわけではなく、土用の丑の日とうなぎを結び付けた人物については、ほかにも複数の説があります。
それでも、この話が長く語られている理由は分かります。
構造があまりにも現代的だからです。
平賀源内がやったことは現代の季節限定商法と同じ
仮に平賀源内説が事実だったとしても、源内は新しいうなぎ料理を発明したわけではありません。
値下げもしていません。
「うなぎを食べれば絶対に健康になる」と、医学的な説明をしたわけでもありません。
もともと存在していた「土用」「丑の日」「うの付く食べ物」という三つの要素を組み合わせ、うなぎを食べる理由を作っただけです。
しかし、人は理由があると行動しやすくなります。
普段なら高くて迷ううなぎでも、
「今日は土用の丑の日だから」
という理由があれば買いやすくなります。
クリスマスにチキンを買い、バレンタインにチョコレートを買い、節分に恵方巻きを買うのと同じです。
必要だから買うのではありません。
その日に買う理由を提示されたから買うのです。
現在の言葉で表すなら、季節限定企画と分かりやすい広告コピーを組み合わせた宣伝です。
しかも、この企画は一時的な流行で終わっていません。
江戸時代に始まったとされる宣伝が、テレビ、新聞、スーパー、コンビニ、インターネットへと媒体を変えながら、現在まで受け継がれています。
これほど長期間続いている広告企画は、なかなかありません。
うなぎに栄養があるのは事実
平賀源内説が伝説だったとしても、うなぎが栄養価の高い食品であることまで作り話というわけではありません。
うなぎには、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンD、ビタミンE、たんぱく質、脂質などが含まれています。
特にビタミンAや、糖質をエネルギーに変えるために必要なビタミンB1を摂取できる食品です。農林水産省も、うなぎには夏に不足しやすい栄養素が含まれていると紹介しています。
ただし、うなぎを一度食べれば、寝不足や疲労、暑さによる体調不良がすべて解決するわけではありません。
夏を乗り切るためには、睡眠、水分、普段の食事、室温管理なども必要です。
うなぎは栄養価の高い食事ではありますが、夏バテに対する万能薬ではありません。
毎日の生活が崩壊しているところへ、うな重を一つ投入しても、すべてが元通りになるほど人体は単純ではないのです。
実は、宣伝だけでは200年も続かない
土用の丑の日とうなぎの関係が宣伝から広まったとしても、宣伝だけで200年以上も続くとは考えにくいでしょう。
うなぎには栄養があり、蒲焼きには特別感があり、甘辛いタレはご飯にもよく合います。
暑さで食欲が落ちる時期でも、香ばしい匂いをかぐと食べたくなる人は少なくありません。
つまり、きっかけが宣伝だったとしても、商品そのものに魅力があったから習慣として残ったのではないでしょうか。
どれほど宣伝がうまくても、食べた人が毎回がっかりする商品なら、何世代にもわたって定着するのは困難です。
「平賀源内の広告がすごかった」という話だけでなく、「その広告に耐え続けたうなぎもすごかった」という話でもあります。
2026年の土用の丑の日は7月26日
2026年の土用の丑の日は、7月26日の日曜日です。
専門店でうな重を食べるのも、スーパーの蒲焼きを家で温めるのも、うどんや梅干しで「う」の付く食べ物という原型に戻るのも自由です。
ただ、今年うなぎを食べるときは、少しだけ考えてみてください。
自分は本当にうなぎが食べたいから買ったのか。
それとも、「今日は土用の丑の日だから」という理由に背中を押されたのか。
おそらく答えは、両方でしょう。
江戸時代に作られたとされる宣伝文句に影響されながら、それを理解したうえで、今年もうなぎをおいしく食べる。
それでよいのだと思います。
平賀源内が本当に仕掛け人だったのかは分かりません。
しかし、2026年になっても日本中が同じ日にうなぎを食べようとしている光景そのものが、この説を魅力的に見せています。
土用の丑の日とは、単なる夏の食習慣ではありません。
私たちが200年以上前の広告に、今も気持ちよく乗せられ続けている日なのかもしれません。
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