陰謀論にハマるのは「頭が悪い人」ではない|プライドと劣等感が生む“真実に気づいた自分

陰謀論にハマる人の心理 陰謀論
陰謀論にハマる人の心理

「医者は本当のことを知らない」
「マスコミは都合の悪い事実を隠している」
「精製塩は危険で、天然塩だけが体にいい」
「がんは病院ではなく自然療法で治せる」

こうした主張を見ていると、不思議に思うことがあります。なぜ、長年その分野を研究してきた専門家より、少しインターネットで調べただけの人のほうが自信満々なのでしょうか。

専門家が「現時点では断定できません」と慎重に話している横で、何の研究もしていない人が「真実はこれです」と言い切る。その自信は、いったいどこから湧いてくるのでしょう。

私は、陰謀論にハマる人が、必ずしも単純に頭の悪い人だとは思いません。むしろ厄介なのは、プライドが高く、劣等感が強く、理屈を組み立てられる程度には頭が回る人なのではないかと思っています。

陰謀論は「自分を特別にする物語」になる

陰謀論には、ほぼ必ず同じような構図があります。

世間の大多数は騙されている。専門家も真実を理解していない。しかし、自分だけは裏側に気づいている。

この物語の中では、学歴も資格も研究実績も必要ありません。必要なのは、「世間の常識を疑った」という自己申告だけです。

それだけで、昨日まで何者でもなかった人が、医者や研究者よりも真実を知る人間になれます。

心理学の研究でも、「自分は他人とは違う特別な存在でありたい」という欲求と、陰謀論を信じる傾向との関連が報告されています。また、自己愛的な傾向と陰謀論への傾きにも、弱いながら関連が確認されています。

陰謀論が与えてくれるのは、単なる説明ではありません。「自分はその他大勢ではない」という立場です。

真実を知ることより、真実を知っている側の人間になることに価値が置かれているのです。

真っ当な土俵では専門家に勝てない

科学や医学の世界で何かを主張するには、相応の積み重ねが必要です。

基礎知識を学び、過去の研究を読み、仮説を立て、実験や調査を行い、その結果を他者から検証されなければなりません。自分に都合のよい結果が出なければ、考えを修正する必要もあります。

当然、簡単な道ではありません。その土俵で専門家に勝とうとすれば、何年、何十年という勉強が必要になります。

しかし、土俵そのものを否定してしまえば話は別です。

「学歴のある人ほど洗脳されている」「論文は製薬会社に都合よく作られている」「医者は西洋医学しか教えられていない」。

こう言ってしまえば、専門知識を持っていることが、逆に「真実が見えない証拠」になります。知識がないことは弱点ではなく、「常識に染まっていない」という長所に置き換えられます。

実に便利なルールです。自分が負ける競技を廃止し、自分だけが勝てる新しい競技を始めているようなものです。

しかも、研究者側はその人と勝負しているつもりすらありません。研究者はデータを集め、専門家同士で検証しているだけです。

その横から一方的に勝負を持ちかけ、「専門家を論破した」と勝利宣言しているにすぎません。

中途半端な賢さが理屈を補強する

陰謀論にハマる人を「何も考えていない人」と片づけるのも違うと思います。

彼らは大量の動画を見て、記事を読み、数字を拾い、別々の出来事を結びつけます。一見すると、かなり熱心に考えているように見えます。

しかし、その思考は「自分の仮説が間違っていないか」を確かめるためには使われません。「自分が正しい証拠」を集めるためだけに使われます。

反対の証拠が出れば、「その情報も支配されている」と解釈する。専門家に否定されれば、「専門家が必死に隠そうとしている証拠だ」と考える。予想が外れても、「計画が変更された」と説明する。

これでは、どのような結果が出ても信念は揺らぎません。陰謀論が強いのは、証拠が豊富だからではなく、反証できない構造になっているからです。

陰謀論への傾きは、直感を優先して少ない情報から結論を出す傾向や、深く考え直す力の弱さと関連することも報告されています。

また、近年の研究では、陰謀論を強く信じる人ほど、数的能力や知覚課題における自分の成績を実際より高く見積もる傾向も示されています。これは単なる「無知」ではなく、自分の判断力に対する過信が関係している可能性を示します。

だから私は、「中途半端に賢い」という言葉がしっくりきます。

これは知能検査の点数が中程度という意味ではありません。情報を集め、もっともらしい理屈を作ることはできる。しかし、自分の結論を疑い、反対の証拠まで公平に検討するところには到達しない。

理屈を作る力はあるが、その理屈を壊す力がない。

その中途半端さが、陰謀論を強固にしているのではないでしょうか。

劣等感は「自分だけは賢い」に変換される

人は、自分が評価されていないと感じたとき、その評価基準を否定したくなることがあります。

勉強で評価されなければ、「学歴には意味がない」と言う。専門的な仕事ができなければ、「資格を持っているだけの人間は使えない」と言う。研究者に知識で勝てなければ、「研究者は常識に洗脳されている」と言う。

もちろん、学歴や資格だけで人間の価値が決まるわけではありません。専門家が常に正しいわけでもありません。

しかし、「専門家も間違えることがある」と「専門知識には価値がない」は、まったく別の話です。

心理学研究では、陰謀論への傾きには、不安、不確実性、社会から疎外されている感覚、物事を制御できない感覚などが関連するとされています。陰謀論は、複雑で不安定な世界に、分かりやすい原因と犯人を与えてくれるからです。

そこに高いプライドが加われば、単なる不安は、より都合のよい物語へ変換されます。

「自分には理解できない」ではなく、「専門家が間違っている」。「自分は評価されていない」ではなく、「世間には見る目がない」。「自分には実績がない」ではなく、「実績のある人間ほど真実から遠ざかっている」。

これなら、自分の立場を一切変えずに、専門家よりも上に立てます。

科学を疑うことと科学を無視することは違う

科学を疑うこと自体は、悪いことではありません。

むしろ科学は、既存の説を疑い、検証し、間違っていれば修正することで発展してきました。

ただし、科学的な批判には条件があります。過去の研究を理解し、データを確認し、同じ方法で検証できる形で反論することです。

「私はなんとなく信用できない」「友人がこれで治った」「昔の人は天然のものを食べていた」。

これらは意見や体験談にはなっても、研究への反証にはなりません。

何十年も積み上げられてきた研究を否定したいのであれば、同じ土俵に上がり、検証に耐える証拠を示すべきです。

それをせずに「科学は間違っている」と言うのは、勇気ある異論ではありません。

調べる責任を放棄したまま、結論だけを欲しがっている状態です。

Xやネット上で見られる反応

Xなどでは、陰謀論について「社会で居場所や承認を得られなかった人が、真実を知る側に回ることで生きがいを得ているのではないか」という意見が見られます。

また、「陰謀論と呼ばれているだけで、本当は真相だ」「マスコミを信じる人間は洗脳されている」といった投稿もあり、陰謀論を信じる側が、自分たちを批判する言葉そのものを反転させている様子も見られます。

一方で、「現実に権力者の不正や隠蔽が発覚することもあるため、すべてを陰謀論として切り捨てるべきではない」という反応もあります。

これは区別が必要です。実際に陰謀や隠蔽が存在することと、証拠のない主張を信じることは同じではありません。

疑うことは自由ですが、疑いを事実に昇格させるには証拠が要ります。この当たり前の手続きだけが、なぜか「真実に目覚めた人」の世界では省略されます。

陰謀論者が求めているのは真実なのか

陰謀論にハマる人が求めているのは、本当に真実なのでしょうか。

真実を求めているなら、自分に都合の悪い証拠も検討するはずです。間違いが分かれば、考えを修正するはずです。

しかし、どのような証拠を示しても「それも陰謀の一部だ」と返すのであれば、守ろうとしているのは真実ではありません。

守っているのは、「自分だけは騙されていない」という自己像です。

陰謀論にハマりやすいのは、単純に頭の悪い人ではない。

プライドが高く、劣等感が強く、それを覆い隠すための理屈を作れる程度には頭が回る人です。ただし、自分の考えを疑うほどには深く考えない。

だから「世間は騙されている」「専門家は分かっていない」「自分だけが真実に気づいた」という物語にたどり着く。

陰謀論は、努力も実績もない人間が、一瞬で専門家より上に立てる場所です。そこでは勉強していないことも、検証していないことも、何の弱点にもなりません。

むしろ「常識に染まっていない証拠」として扱われます。

しかし、真実に気づいたのではありません。

「真実に気づいた自分」という、最も気持ちのよい役を演じているだけです。


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