献体登録者数が減少。こんな事件を知っても、あなたは献体したいと思えますか?

それでも献体登録しますか? ネットニュース
それでも献体登録しますか?

「医学の発展のために、あなたの身体を提供してほしい」

死後、自分の遺体を医学教育や研究に役立てる「献体」。医学生が人体の構造を学び、医師が手術技術を向上させるために欠かせない制度ですが、近年は登録者数の減少が問題になっています。

2026年11月には千葉大学が献体登録者数の減少に危機感を示し、医学の未来のために協力を呼びかけていることが報じられました。

しかし、このニュースに対してネット上では、過去の献体をめぐる不祥事を指摘する声が上がっています。

解剖実習中に女性の献体に対して不適切な行為をしたとされる学生。遺体の写真をSNSに投稿して批判された美容外科医。適切な保存処置を行わなかった大学に、遺骨の返還を長年怠っていた大学。

自分の死後、こんな扱いを受ける可能性があると知っても、あなたは献体登録したいと思えるでしょうか。

もちろん、すべての医療関係者がこのような行為をしているわけではありません。しかし、献体を希望する人にとって重要なのは、ほとんどの人が真面目に取り組んでいるという説明だけではないはずです。

今回は、献体登録者数が減少している現状と、献体への信頼を揺るがした過去の事件、登録する前に知っておくべき問題について整理します。

献体登録者数が減少、千葉大学が協力を呼びかけ

千葉大学医学部では、献体登録者数が長期的に減少していることを受け、将来の医学教育への影響を懸念しています。

千葉大学の献体登録団体「千葉白菊会」の会員数は、2004年度に2,382人でピークを迎えました。しかし、2025年度には1,883人となり、ピーク時から約21%減少しています。

年度 献体登録者数
2004年度 2,382人
2005年 2,345人
2010年 2,063人
2015年 1,977人
2020年 1,914人
2025年度 1,883人

※千葉大学の公表資料と報道をもとに作成。2004年度はピーク時の在籍登録者数です。

献体は医学部の学生が人体の構造を理解するためだけでなく、現役の外科医が手術技術を磨く研修にも活用されています。千葉大学では、献体制度を知ってもらうためのイベントも開催しており、医学の発展に必要な制度として協力を呼びかけています。

献体登録者数が減少している原因

登録者が減少した理由として挙げられているのが、新型コロナウイルスの流行による高齢者同士の交流機会の減少です。

千葉大学大学院医学研究院の鈴木崇根准教授によると、献体登録のきっかけには知人からの口コミが大きな役割を果たしていました。しかし、コロナ禍で高齢者の集まりが減ったことで、制度を知る機会も失われたといいます。

さらに、医師らが解剖した遺体の写真をSNSに投稿し、倫理的な問題として批判されたことも、献体登録に影響した可能性が指摘されています。

つまり、献体を知る機会が減ったという問題に加えて、制度そのものへの信頼が揺らいでいる可能性もあるということです。

ただし、過去の不祥事が全国の登録者数をどの程度減少させたのか、具体的な数字までは明らかになっていません。

神奈川歯科大学では女性の献体への不適切行為が問題に

献体に関する不祥事として、ネット上で繰り返し取り上げられている事件があります。

2011年7月、神奈川歯科大学の解剖学実習中に、男子学生が女性の献体に対して不適切な行為をしたとして退学処分を受けました。

この事件についてSNSでは、男子学生が女性の献体の膣に指を挿入し、約2分間にわたって激しく動かしたという内容が拡散されています。さらに、周囲の学生が制止したものの行為をやめず、泣き出した女子学生もいたという情報まで広まっています。

ただし、これらの具体的な描写については注意が必要です。

2011年に退学処分があったことと、その後の裁判は確認できますが、SNSで拡散されている行為の細部については、裁判所がすべて事実として認定したことを確認できていません。

大学側の主張として紹介される情報と、裁判所が認めた事実を混同することは避ける必要があります。

退学になった学生が大学を訴え、約1,200万円の賠償命令

この事件がさらに注目される理由は、処分後の裁判にあります。

退学処分を受けた元学生は、大学の処分が不当だとして約1,500万円の損害賠償を求めて提訴しました。2013年9月、横浜地方裁判所は大学側に約1,200万円の支払いを命じています。

裁判所が問題視したのは、大学側の調査が不十分だったことや、退学処分が重すぎたことでした。学生と周囲の関係者の説明に食い違いがあったにもかかわらず、十分な調査を行わなかったと判断されたのです。

つまり、裁判所が献体への不適切な行為を容認したわけではありません。大学側の処分の妥当性が争われた結果であり、元学生に支払うよう命じられた賠償金も、問題行為への報酬ではありません。

しかし、献体する側からすれば、裁判の仕組みとは別に考えたくなることがあります。

医学のために提供された自分の身体に不適切な行為が疑われても、大学の調査が不十分で、結果として処分すら維持できない。そんな状況を安心できるといえるのでしょうか。

事件の詳細をめぐる事実関係には慎重さが必要ですが、献体された遺体の扱いをめぐって大学と学生の間で争いが生じたこと自体、信頼を考えるうえで見過ごせない問題です。

美容外科医が遺体の写真をSNSに投稿して炎上

2024年12月には、美容外科医がグアムで行われた解剖研修の写真をSNSに投稿し、大きな批判を集めました。

投稿には解剖研修で使用された遺体の頭部が並ぶ写真や、医師らが笑顔でピースサインをしている写真などが含まれていました。遺体が写った写真の一部では、画像を隠す処理が不十分だったとも報じられています。

この問題を知って、あなたはどう感じるでしょうか。

誰かの医学の勉強に役立ててほしい。そんな思いで提供した身体が、医師のSNSに掲載されてしまうかもしれない。

遺族が知らないところで写真が撮影され、ネット上に公開される可能性を考えれば、献体することに不安を感じる人がいても不思議ではありません。

なお、この騒動は海外の解剖研修で発生したものであり、日本の献体制度によって提供された遺体を撮影した事件ではありません。しかし、日本国内でも献体制度への不信感が広がるきっかけになりました。

実際に献体登録を取りやめた人も

この騒動は、SNS上の批判だけでは終わりませんでした。

篤志解剖全国連合会と日本篤志献体協会が2025年に実施した調査では、献体の取りやめを希望する申し出が全国の大学で少なくとも10件以上確認され、実際に6人が献体を取りやめたことが明らかになっています。

つまり、医師のSNS投稿によって、献体を希望していた人が実際に考えを変えたのです。

献体が医学に必要であることと、自分の遺体を他人に預けたいと思えることは別問題です。どれほど医学の発展に役立つとしても、自分や家族の尊厳が軽視される可能性を感じれば、登録をためらう理由になります。

島根大学では献体50体の保存処置に不備

問題は、学生や医師個人の行動だけではありません。

2022年4月、島根大学医学部は、医学教育のために提供された献体の保存処置が適切に行われていなかったことを公表しました。

大学が保管していた112体のうち、50体に適切な保存処置が行われていなかったことが判明しています。また、一部の献体では個人の識別を確認する必要が生じ、大学は画像診断などを実施して身元の確認を行いました。

島根大学は管理体制の不備を認め、遺族や関係者に謝罪しています。

しかし、ここでも考えてみてください。

自分の身体を医学教育のために役立ててほしいと願い、大学に託したとします。その後、遺体の保存処置が適切に行われず、本人を識別するための確認まで必要になっていたとしたらどうでしょうか。

献体者は、自分の死後に保存状態を確認できません。大学が適切に管理してくれていると信じることしかできないのです。

その信頼を裏切るような管理上の不備が実際に起きていたことは、献体を検討するうえで無視できません。

兵庫医科大学では遺骨を約6年半返還せず

遺体の取り扱いだけでなく、火葬後の対応にも問題が発生しています。

兵庫医科大学では、2014年に献体された男性の遺体を2015年に解剖・火葬したものの、遺族への連絡を怠り、約6年半にわたって遺骨を返還していませんでした。

問題が発覚したのは、2021年に遺族が大学へ問い合わせたことがきっかけでした。

さらに、遺骨が本当に本人のものなのかという疑問が生じ、DNA型鑑定でも本人と特定できなかったと報じられています。遺族は大学側に損害賠償を求めて提訴しました。

2024年2月、神戸地方裁判所は大学側の管理体制の不備を指摘し、150万円の支払いを命じています。ただし、遺骨が粗雑に保管されていた証拠はないとも判断しました。

この事件では、本人だけでなく遺族の立場も考える必要があります。

亡くなった家族が医学に役立ててほしいと願ったからこそ、その意思を尊重して大学に身体を預ける。それなのに火葬が済んだことすら知らされず、何年も遺骨が戻ってこなかったのです。

遺族は、大学側に適切な管理と対応を求めています。

献体は本人の善意によるものですが、その後の対応を引き受けるのは残された家族です。本人が納得していても、遺族がどのような経験をすることになるのかまで考えなければなりません。

過去に起きた献体をめぐる不祥事

ここまで紹介した事例を整理すると、献体に関する問題は一つの種類に限らないことがわかります。

年 大学・関係者 問題になった内容
2011年 神奈川歯科大学 解剖実習中の不適切行為を理由とする退学処分と、その後の裁判
2024年 美容外科医 海外の解剖研修で撮影した遺体の写真をSNSに投稿
2022年公表 島根大学 献体50体に適切な保存処置を行っていなかった
2021年発覚 兵庫医科大学 火葬後の遺骨を約6年半にわたり返還していなかった

※神奈川歯科大学の件では、SNS上の具体的な行為の描写について確認できていない部分があります。

これらの事件を見て、献体制度そのものが危険だと断定することはできません。事件の発生時期も大学も異なり、日本全国の大学で同じ問題が起きているわけではないからです。

しかし、これまでに複数の問題が起きている以上、「大学を信じてください」という説明だけで誰もが納得するとは限りません。

実際に献体を取りやめた人がいることを考えれば、過去の不祥事が制度への信頼に与えた影響も軽視できないでしょう。

献体登録には家族への負担もある

ここまで紹介した不祥事とは別に、献体登録には制度上の注意点もあります。

献体は無条件・無報酬で行われるため、提供した本人や家族に報酬が支払われることは原則としてありません。登録後は大学の定める条件に従い、亡くなった際には遺族が大学への連絡などを行う必要があります。

遺骨が戻るまで2〜3年かかることも

千葉大学では、献体から遺骨が戻るまで原則2〜3年かかると案内しています。他の大学ではさらに長い期間を案内している場合もあり、大学によって異なります。

その間、遺族は遺骨がない状態で四十九日や一周忌を迎える可能性があります。亡くなった家族を早く供養したいと考える人にとっては、無視できない負担でしょう。

家族の同意がなければ実行できない場合も

本人が生前に献体を希望していても、亡くなった後に家族が反対すれば実行できない場合があります。

千葉大学では、配偶者や子ども、兄弟姉妹など、生存している所定の親族全員の同意を求めています。大学によって条件は異なりますが、少なくとも本人一人だけの問題ではありません。

登録していても献体を断られる場合がある

感染症や事故による遺体の損傷など、死亡時の状況によっては献体が認められないこともあります。

つまり、献体登録をしたからといって、必ず希望どおりに実行されるとは限りません。受け入れができなかった場合の葬儀や火葬についても、家族が対応することになります。

「献体したくない」ネット上では不信感も広がる

献体登録者数の減少が報じられる一方、過去の不祥事を知った人たちからは、制度そのものへの不安も示されています。

特に2024年の美容外科医によるSNS投稿騒動では、献体をしないと表明する声が相次いだことが報じられました。

また、神奈川歯科大学の過去の事件が再び拡散された際には、遺体に対する不適切な行為への嫌悪感とともに、大学側の対応を問題視する反応も見られます。

死後の身体を安心して預けられない

献体に否定的な人たちが問題視しているのは、自分の死後に身体がどのように扱われるのか確認できないことです。

亡くなった本人は、遺体を不適切に扱われても抗議できません。写真を撮影されたとしても、その公開を自分の意思で止めることはできないのです。

そのため、たとえ一部の不祥事であっても、自分の身体を預けることへの不安につながります。

登録を呼びかける前に信頼回復が必要ではないか

大学側が献体の重要性を訴えることについても、過去の問題への対応が問われます。

献体登録者が減少すれば、医学教育や手術技術の向上に影響する可能性があることは理解できます。しかし、医療関係者にとって必要だからといって、一般の人が当然のように協力しなければならないわけではありません。

むしろ、協力を求めるのであれば、遺体がどのように管理され、問題が起きた場合にどう対応するのかを十分に説明することが重要でしょう。

医学の発展に献体は欠かせないという意見も

一方、献体の必要性そのものを否定すべきではないという考え方もあります。

解剖実習は医学生が人体の構造を学ぶ重要な機会であり、医療技術の向上にも貢献しています。また、日本の大学では遺体に敬意を払い、黙祷や慰霊祭などを通じて献体者に感謝する取り組みも行われています。

2025年には日本解剖学会などが献体解剖倫理指針を策定し、実習中のスマートフォンの持ち込みやSNSへの不適切な投稿を防ぐためのルールも示されました。

不祥事が起きたからといって、すべての医学生や医師が遺体を粗末に扱っていると考えることはできません。

ただし、献体を必要とする人が真摯に取り組んでいることと、提供者が安心して登録できることは別の話です。

献体登録者数が減少して困るのは誰なのか

献体登録者数が減少すれば、医学生や医師の教育・研究に影響が生じる可能性があります。その結果、医療を受ける私たちにも影響が及ぶかもしれません。

だからこそ、大学側が献体制度への理解を求めることには意味があります。

しかし、ここで考えたいのは、献体という制度が本人の善意によって成り立っているということです。

医学の発展に貢献するために、自分の死後の身体を無償で提供する。その決断には、金銭的な報酬がなくても役立ちたいという強い意思があります。

だからこそ、提供された遺体を大切に扱うことは、制度を利用する側に求められる最低限の責任ではないでしょうか。

一部の不祥事を理由に、医学教育に携わる人たち全員を批判することは適切ではありません。しかし、実際に問題が起きている以上、それを知った人が献体をためらうことまで否定するべきではないでしょう。

献体登録者が減っているから協力してほしい。そう呼びかけるのであれば、登録する人が安心できる理由も示してほしいものです。

こんな事件を知っても、あなたは献体登録したいと思えますか?

献体は医学の発展を支える大切な制度です。医学生が人体について学ぶことも、医師が手術技術を向上させることも、将来の患者の命を守ることにつながります。

しかし、その必要性だけで献体への不安が解消されるわけではありません。

女性の献体への不適切行為をめぐる裁判、医師による遺体写真のSNS投稿、大学の保存処置の不備、遺骨返還の遅延。こうした問題が実際に起きていることも、献体を検討する人が知っておくべき情報です。

もちろん、事件があっても医学の発展に協力したいという人はいるでしょう。その意思は尊重されるべきですし、献体を受け入れる大学が適切に管理するための取り組みを進めていることも忘れてはいけません。

一方で、これらの問題を知って「自分は献体したくない」と考える人がいたとしても、その判断を責めることはできないはずです。

献体する自由があるのと同じように、献体しない自由もあります。

登録者数が減少している背景には、コロナ禍による交流の減少など、さまざまな事情があります。不祥事だけが原因だとはいえませんが、大学や医療関係者への信頼が献体登録を判断する材料の一つであることは確かでしょう。

医学の未来のために協力してほしいという訴えも理解できます。しかし、その前に、登録する側の不安と向き合うことも必要なのではないでしょうか。

最後に、改めて問いかけます。

自分の死後、身体がどのように扱われるのかを確かめることはできません。過去にこうした事件が起きていたことを知っても、あなたは献体登録したいと思えますか?


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